8月11〜12日(2日目)
川を流域住民(あなた)がとりもどす全国シンポジウム
特別講演「地方分権〜流域住民(あなた)が川を取り戻す時代」
「美しい国日本」「戦後レジュウムからの脱却」を謳う安倍首相に対し「生活が第一」をスローガンに民主党が参院選を征したのは最近の話だけれど、地方6団体からはすでに96年に「成長重視から生活重視へ」との意見書が政府に出されている。そのためには地方分権。その意味で三位一体改革の理念は正しいかったけれど、各省庁の利権をむさぼる勢力の抵抗からか、補助金廃止はままならず、地方分権とは名ばかり「地方切捨て」の交付税の削減だけが目立った改革だった。
さて、川の地方分権についてはどうだろう。神野先生が委員長を務めた地方6団体の新・地方分権構想検討委員会の答申では、「道府県内で完結する一級河川水系は道府県での自治事務とする」「複数の道府県にまたがる一級河川は広域連合制度などにより、共同管理とする」「補助金は一般財源に」「災害時は高率の交付金を国が交付する」となっている。
吉野川の整備についても「自分の地域の川の問題はそこに住んでいる自分たちで決めたい!」というのが徳島市の第十堰住民投票運動のテーマだった。地方分権、地方自治の精神だ。神野先生:「儲かる社会=幸福」という呪文ににとりつかれ、経済成長一辺倒できた結果、農業社会が解体され、町の小さなダンスホールや商店街は姿を消し、コミニティが崩壊。農業中心の社会では生きた自然相手であり身近にあった水が、工業中心の社会では死んだ自然を原材料としているため現場が見えない、自然と分離し、遠くなった水。水を身近に取り戻す、「川の地方分権=河川をどうするか」という問題はとても哲学的。
神野先生の講演の3つの柱
- 正しい問題を提起すれば、その問題は半分以上解決したも同然である。今すでに、地球環境の時限爆弾のスイッチが押されている状態。
- 部分でなく、全体を見る大切さ。
- 未来の選択は民主主義に任せよう!未来は誰にも分からない。誰もがかけがえのない能力を持っていることを信じることが大切。
未来を信じる確信が強ければ強いほど、それが現実になる可能性が高い、それを「予言の自己成就」というそうだ。池住義憲さん(地球市民教育)の言う、「変化は可能だ!」を思い出した。そのために「無力感を克服すること」だ。東大の経済の先生の語りがこれかと感動、希望を見た気がした。
ちなみに神野先生は飯泉知事提案の「ふるさと納税」に大反対。「ふるさとは近くにありて守るもの」「ふるさとは近くにありて愛するもの」であり、「ふるさとは遠くにありて思うもの」であってはならないという意味。住民税を納めていない人に決定権を与えないという考えがあってはならないし、それは民主主義の否定。ふるさとを見捨て、遠くから納税するのでなく、ふるさとの人々とともに誰もが帰っていける場所にすることを目指したいものだ。
シンポジウム「政治は川の問題をどう解決するのか?」
開催前に各政党にアンケートを行った。
1−(1)現在の河川法による河川整備の計画制度の中で住民参加は十分なされているか?
1−(2)そもそも河川の管理や整備に住民参加は必要か?
2 地方6団体による「一級河川の管理を国から地方へ移譲すべき」に対する賛否とその理由は?
3 河川管理や整備について将来のあるべき姿は?そのために必要な政策、制度、施策は?
1−(1)については、自民党以外の各政党が「不十分」1−(2)は、全政党とも「必要」、
2については政府与党は反対、野党は「どちらともいえない」。どちらともいえない理由は、「十分な財源の保障されることが条件」(共産党)、「国と地方が十分に役割分担を協議すべき。今後の検討課題」(民主党)。3について「住民の意見も踏まえ関係機関の連携の下、全国的な水準を確保しつつ、地域ごとの実情も考慮して進める」(自民党)、「国と地方の適切な役割分担の下、住民や関係者の意見を十分い参考にしつつ、行政が万全の責任を持つ姿勢で対処すべき」(公明党)、「ダムは河川の流れを寸断し、生態系に大きな悪影響。流域利水、流域管理の考え方で、森林の再生、自然護岸の整備を通じて「みどりのダム構想」を推進。現在建設中計画中のダムはいったんすべて凍結」(民主党)、「治山と治水は表裏一体。森林資源を改めて見直す。過大な水需要や基本高水の設定の見直し、ダムに頼らない治水、公募の委員による流域委員会の設置、基本方針は10年、計画は5年で、データや論議の公開、利権や癒着の構造にメスを!」(共産党)
「生活に関連したことはすべて権限委譲すべきだが、川の地方分権ができたとしても、地方で無駄な公共事業が行われる危険性あり。」と、参院時代に超党派による「公共事業チェックの会」会長を務めた中村敦夫さん。「これからはグローバリゼーションよりもむしろローカリゼーション。しかし、地方に能力のある人間がいるのか?」これに対し嘉田由紀子知事は「これまで地方自治体の仕事のほとんどは国の機関委任事務であり、国は100年にわたり地方から考える力を奪っていた。地方に優秀な職員はいるし、自治体に潜在能力はある。権限と財源を移譲すべき」と主張した。
嘉田知事は琵琶湖流域を数千箇所もフィールド・ワークした研究者をしての実績があり、「水との関わり」に対する実践からくる自信に満ち溢れている感じ。これまでの「一定規模の洪水を河道内で安全に流下させる」という治水対策から、「1、人々の命を守る。2、床上浸水のような壊滅的洪水を防ぐ。3、床下浸水、農地の浸水も防ぐ」という3段階の目標設定に変え、自助、共助、公助を組み合わせた治水対策へと変換を図るために滋賀県では知事就任直後に流域治水政策室を設置した。現在、流域治水基本方針を作るための行政関係委員会を発足するところだそうだ。
知事選挙のときのキャッチコピー「もったいない」は、本来、お金の節約を意味するのでない。「勿体(もったい)」とは「自然の本来の力」のことを言うそうだ。「もったいない」は「豊かな自然を生かしきれていない」「豊かな自然を壊している」というようなことか。江戸から明治中期ごろまで、生活に根ざした「近い水」の時代から、明治22年町村合併、明治29年河川法制定により「河道封じ込め方治水政策」の拡大による「遠い水」の出現、昭和20〜30年代ごろは「遠い水」の浸透・完成期。現在は、平成9年の河川法改正により、行き過ぎた「遠い水」への反省と「近い水」の再生・創生期だという。知事選に出ることを表明したとき「周りから人々がスーッとひいていった。三途の川を渡ったんだ。命がけでやらねば。」と思ったそうだ。(ちょっと分かるナ。)
「若者が毛嫌いし寄り付かないのが日本の政治文化。若い人が投票に行くようになってほしい。政治は未来を作るのだから、もっと普通の感覚でみんなが関わるべきだ。」とは徳島の勝手連のテーマと同じ。7年前、嘉田さんに第十堰に来てもらい、フィールドワーク(第十の住民にインタビューして歩いた)の手法を教えていただいたことが懐かしく思い出された。まさか滋賀県知事になるとは思っていなかった。世の中、何がどうなるか分からない。「動けば、変わる」と信じて行動しよう!
1日目の司会は豊岡和美ちゃんが担当。夜のキャンプも担当し、お料理上手の彼女はおいしいカレーを大鍋いっぱい作り、キャンプの世話を終えた夜遅くにゲストをホテルまで送り、2日目も朝3時起きでキャンプの朝食(ゆで卵は吉田家(我が家)の放し飼い鶏の卵をキャンプを手伝ってくれた山川の友人みどりちゃんが届けてくれた。)を準備した。
川の問題を引き継いでくれる若者たちにぜひこのシンポに参加してほしいというみんなの願いを受けて、若者たちを呼び込むキャンプを実現するために、精力的に動いた。いつものことながら頭が下がる。私はというと、彼女とバトンタッチで2日目の司会担当。700名の参加者の前で、程よい緊張の中、とても居心地よく、無事すべてを終えることができた。光栄な役割を与えてくれたプロデューサーの村上さんに感謝。チケットも売れて、内容もすばらしく、参加者に喜んでもらえてとても幸せだった。
しかし、イベントというものは所詮打ち上げ花火、それぞれの地元に帰ればまたそれぞれが、地道な地を這うような運動に戻っていくのだろう。日本全国どこにいても、緩やかにつながっていけるステキな仲間がいることが確認できた。心の支えにしていきたい。

シンポジウム宣言文について(大熊先生と宇沢先生と)

最後に〜姫野さんによる参加者アンケート集計
今回のシンポは,当初の心配とはうらはらに,一般参加者が多いのが特徴。首長や県,国交省の職員も相当数参加,また川の問題に初めて触れるという方も多数、若い人たちの参加も目立った。川問題をマニアックな世界から引っ張り出す,という今回のシンポのねらいは,まず参加者の面からは,一定成功したといえる。
ではその参加者の印象はどうだったのか。コメントを紹介しよう。
参加者の受けたインパクトの大きさが伺える。
アンケート回収結果(172通分)
シンポのご感想は?
たいへんよい・130名(76%)
まあまあ・・・・29名(17%)
よくない・・・・・1名
【1】コメントー全体について
- 川の現実が,住民の想いが,とてもわかりやすく響いたシンポジウムだった。住民の『実感』が国を動かす様子をもっと知りたくなった(23女)
- 出演者,参加者がこれほど一体となった熱気を感じられる会は知らない(63女)
- 魂を感じたシンポジウムでした(54女)
- やらせのないシンポジウム。清々しい。すばらしい!(52女)
- 11日だけ参加の予定でしたが,あまりに興味深く,12日も参加してしまいました。徳島県民として誇りにおもいます(37女)
- こんなわくわくするシンポは初めて!登壇者がとても素直に話され,真摯に向き合っていることが伝わってきた。本来のシンポジウムの姿を見た思いです。(36女)
- 色々シンポに参加したが今回のは秀逸です。(46男)
- 内容が充実していて,時間があっという間に過ぎた。歴史的なシンポになると思います(30男)
- 一方的な住民の主張ではなく,政治的視点,専門家の視点,行政の視点(国政と地方行政)の多様な思考プロセスをかいま見ることができた。今後の川づくりに生かしたい。(32男48男)
- 発言者の言葉に,空疎で美辞麗句なものが皆無だった。思考や感情が鼓舞され刺激を受けた。(66女)
- 素人にもわかりやすく率直な話が多かった(63男)
- 生まれて初めてシンポジウムに参加。権力に対し,情熱と知識で立ち向かう登壇者の方々がとても,とてもかっこよかった(27女)
- 予想と違って,開かれた討論が行われたことに好感。今の問題がよくわかった。未来に希望を感じた。(51女)
- 私は川に関しては無知だった。来春からジャーナリストの仕事に入りますが,このシンポに参加してよかった。遠い現実が近くの希望になった。(23女)
- 宣言文,意見書の決め方がとてもよかった(50女69男)
- 講師の顔ぶれがよかった(多数)
- 音楽,幅広い講師など専門外の者にもわかりやすく,楽しめた(60女)
- 河野さんのピアノと懇親会のパフォーマンスは,老いも若きも巻き込んで楽しめた(63男)
- 懇親会の気配りがよかった。いい雰囲気(55女58男)
- 懇親会のマイ箸や皿コップはよかったです(23女)
- 真剣に悩んでいる人たちには中途半端なイベントだった(46女)
- 内輪的な雰囲気で居心地が悪かった。基礎知識がなくわかりにくかったが,パネル討論はわかりやすくおもしろかった(29女)
【2】コメントー基調講演について
- 現代の「川普請」のあり方を示唆されました。
- 行政だけでなく,個人の責任も考え直し,基本である川と人の関わりにもどるべきと思いました(45女)
- パワーポイントとてもわかりやすかったです。(27女)
- 「社会的共通資本としての川」の話をもっと聞きたかった(45女54男)
【3】コメントー全国川マップについて
- わかりやすくて印象的な方法だった。問題がよくわかった。(23女27男28女28男38男42男47男56男68女)
- 基本高水の異常な引き上げなどよくデータを集められたものだ。4200万人の意味づけが印象的。このプレゼンをぜひ本に。(37男)
- 新藤兼人の「裸の島」を思い出した。インパクトがありセンスが光った。(66女)
- 川の100年のうち,私は50年も生きてきたんだなあと感慨を覚えました(50女)
- 地図がよかった。表はわかりづらかった。(54女)
- 直接語ってほしかった。各地の声をもっと。(25男34男)
- ルール違反を力で解決しようとし,ルールを盾に悪者にしたのはよくない(33男57男44男)
【4】コメントー「河川法10年」について
- シンポジウム初参加。今までの考えがくつがえされた(22女)
- 登壇者全員の話がおもしろい。すごいなあ。(41女23男)
- 本音の話がすばらしい。とりわけ矢上村長がよかった(68女)
- 野田さんの話がかっこよかった(21女)
- 今,私たち住民の「参加」のありようが問われている。それを指摘された松本さんの話がよかった。(27男)
- 素晴らしいの一事。淀川委で人びとが変わっていく様子が浮き彫りにされ,私たち自身が互いに変わることで,川を取り戻せることがつかめた。(47男)
- 宮本氏の夢を与える話がとくによかった(68女)
- 宮本さんの「理屈より住民の実感を役人にぶつけることで変わってくる」話が印象的(47男26男)
- 素晴らしい顔ぶれと司会力。会場も交えた深い議論。立体的でおもしろかった(23女33女46男51女61男61男64男)
- やりとりの濃さ,わかりやすさが印象的(32男62男)
- 論点明快,話題が拡散しなかった(33男48女62男57男)
- この手のシンポは,問題提起だけで終わりがちだが,問題解決の方向性と可能性を示してくれたことが,画期的だった(48男)
- パネリストと会場が一体になれた(68女)
- ばらばらな感じ。もう少し集約してほしかった(23男)
- 会場意見をもっと採り上げたらよかった(40女50女)
- コーディネーターの意見誘導の姿勢はいかがなものか(54男)
- 環境の専門家が居なかったのが残念(62男)
【5】コメントー特別講演について
- 新たな視点から川問題の基本が見えてきた(54女)
- 信念をもち,大きな視点で,今を読み取る力に感銘(51女)
- 大きな見取り図を与えられた気持ちです(59男)
- 次の講演会にもいきたい(68男)
- 環境を守る民主主義とはなにかという全体像が見えた(56男)
【6】コメントー12日「政治と川問題」について
- 嘉田さんの最後のまとめが素晴らしい(45女)
- 嘉田さんの発言に目を開かれました(57男48男58女)
- 嘉田さんの話で知事のたいへんさがわかりました(45男)
- 嘉田さんの話がすばらしかった。政治が身近なものに変わりつつあるなと実感した(44男)
- 嘉田さんの「住民参加」より「行政参加」という発言にとても共感しました(22女60男)
- 研究と政治の結合が見事です(51女)
- 嘉田さんの「共助」のお話はわかりやすく説得的でした(23女)
- なんといっても嘉田さんの発言に感動しました。民衆の生活の深いところを研究してきた成果を政治に結びつけているからこそ,権限を受け取る自信があるのだと思いました。2日間の討論をシンボライズする発言でした。(47男)
- 嘉田知事にがんばって下さいと伝えて。(多数)
- 中村敦夫さんの話がもっとも新鮮だった(25男23男)
- 政治家の生のやりとりを見て政治が身近に感じられた(21女)
- 川だけに限らない討論テーマがよかった(22女)
- 会場発言が少々ピンぼけだった。市民が政治的行動になれていないためか。自分もふくめ政治文化を変えたいものです(48男)
- これまで別の問題だと考えていた,政策,行政事務,文化の問題が,川を住民の手にとりもどすという視野内ではあるが,同一線上に位置づけうる,との確信をいただいた(69男)
- 司会のてきぱきとした進め方がよかった(69男23男)
【7】コメントー注文・提言など
- パネリストのジェンダーバランス&年代バランスが悪い(33女)
- 70年代の入浜権運動の成果(公物管理と公共信託)が,川の運動に引き継がれていないのが残念(43男)
- 登壇者と会場の意見のやりとりがもっとほしかった(21男)
- プレゼン資料を公開してほしい
- 資料集を作ってほしい(多数)
- 次回もぜひしてほしい(多数)
- スタッフの方へ、すばらしいシンポをありがとう。本当にありがとう。(多数)

終了後ほっとして(神野先生と豊岡和美さんと)
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