7月28日
有機農業が地域を救う〜徳島有機農業を育てる会設立!〜
コープ自然派とくしまを中心として県内の有機生産者や消費者などの呼びかけのもと「徳島有機農業を育てる会」が発足した。200名の会場は満員で熱気に溢れた。
私が子どもの頃、ごく普通にまわりにあった草花や生き物がいつの間にか見られなくなり、「レッド・データ・ブック」なるものに載るようになって久しい。さまざまな生き物が影響しあって地球の「生態系」が守られ、私たち人間もこの地球で生かさせてもらっているのだけれど、地球上の約2000万種類の生き物が1日に100〜300種絶滅し続けているという今、このままでは人類も22世紀を迎えられるかどうか。
絶滅の理由は、乱獲や熱帯雨林の破壊など。しかし日本では、天然林の減少と農薬の影響が最も大きいのではないだろうか。昨年暮れ、有機農業推進法が超党派の議員立法として成立したことは、そういう意味で大きな前進だ。この日の3名の記念講演は、語り手の実践者としての静かな迫力と説得力にあふれ、時代を生きる人として、最高に光るものを感じた。
「農を変えたい全国運動関西」事務局長・本野一郎さん
有機農業推進法について解説。有機JAS法ができて有機農産物にマークがつくようになったけれど、社会的認知度は今ひとつ。以来この5年間で有機農家はわずか0.16%。有機農業者は法律制定までの35年間よく頑張ったけれど、国の認識は「日本はモンスーン気候でありオーガニックはなじまない。」を貫いていた。
有機JAS法は、オーガニック推進のためというより、エセ有機農業者を排除するためのものだったという。そんな中、2004年に超党派の議員連盟ができて、昨年末成立した「有機農業推進法」、通常は与野党の攻防が激化する参院選の前にはまず成立しないものだそうだが、沖縄知事選が終了したあとにひょっと成立したらしい。「有機農業が農業の自然循環機能(農業生産活動が自然界における生物を介在する物質の循環に依存し、かつこれを促進する機能をいう。)を大きく増進し」と第3条)にちゃんと明文化されていることには大きな意義がある。
「小さな哲学者」金子美登さん(埼玉県小川町より)
有機農業を少しでもかじっている人にとっては有名な金子さん。10年ほど前、小川町のバイオマス施設を雑誌で見て、山川で実践できないかと電話で問い合わせをした時に親切に答えていただいたことがある。国の有機農業推進基本方針を策定する審議会の委員(議員6名、学識者7名、実践者1名)に選ばれた彼は、全国の有機農業者の声を集めてはりきって第1回目の審議会に臨み、開口一番「とにかく現場を見て下さい!」と主張した。そして審議委員全員が金子さんの農場、有機大豆を使った豆腐工場とレストランを見学した。
この時彼らは「有機農場は雑草や病害虫だらけ」という想像を覆され、「これならやれる」という基本方針策定への意欲が促された(洗脳ともいう)。「有機農場は生物多様性に富んでいてすてきなところ」という基本認識を植え付けられたのだ。そして第2回目の審議会からは全員が有機農業を理解した委員になった。
当たり前のことのようだが、国の河川審議会を直接傍聴した私には、この当たり前のことがいかに稀なことかが身に染みてすごいと思える。
金子さん曰く「日本を大きな木に例えると商工業が葉っぱや花の部分で農業は根っこ。米・英・仏など先進国の穀物自給率は100%以上なのに日本は27%。「切り花国家・日本」であり、日本の豊かさは細いクモの糸にぶら下がった豊かさである。」「'71年に有機農業を始めた頃には、有機農業は勇気の要る農業だった。農作物の安心・安全の概念も乏しい時代で、近所から変人と思われないように化学肥料を僅かに混ぜた粉末を農薬に見せかけて撒くふりをしていた」という。
その後、消費者グループとの提携、町内の仲間と有機の店をオープン、農薬空中散布の中止実現、特別栽培大豆の集団栽培(その大豆を使ったとうふ工場は年商3億になり、人口2万人弱の小川町に休日には千人が贈答用などの豆腐を買いに訪れる)、バイオガスによる自然エネルギー研究会の立ち上げから実証実験開始、昨年より500世帯の生ごみ(生ごみを出す家庭には3000円のクーポン券を年2回出している!)と学校給食残さによるバイオガスプラント建設が開始、99年より小川町の町会議員として「小川町環境基本計画」策定(町民40名が手弁当で策定に参加)など。
「まわりに勧められ議員になったが、有機農業推進のためにやっています。議員は私にとって虚構。その虚構を通じて真実に迫るんです。」との言葉に共感!「小川さんは小さな哲学者」という評価に納得した感動の講演だった。
土佐自然塾 塾長 山下一穂さん
山下さんもまた実践者としての自信に溢れ、独特のユーモアたっぷりに会場を沸かせた。「技術とマーケティングさえあれば有機農業は広げていける。」「やりたいこととやるべきことが一致した自分はストレスゼロ、有機農業は楽しいどろんこ遊び、畑の中にどれだけ豊かな自然を再生するか、やり甲斐あります!」と本当に楽しそう。
有機を育てるリレートーク
最期はコープ自然派の岸専務をコーディネーターにリレートーク。NPOとくしま農大アグリ・エコ農業研究会の大亀さん、流通分野から徳島バナナの社長・三栖谷さん、キョーエイ社長・埴渕さん、加工の現場から光食品社長・島田さん(育てる会・代表に就任)、消費する立場からコープ自然派理事長・環さん、徳島県教組・小原さん、専門家として徳島大教授(地域経済論、農業経済学)中嶋信先生の豪華メンバー。
中嶋先生は「世界の有機農産物は年間約10%の増加率。「売れない」「手間がかかる」という難題を農家任せにすることなく、地域で育てていくことが必要。(小川町のように)地域の有機農業や加工業を育てることで他の地域に胸を張れるような地域をつくるということがこれからの地域づくりの重要なエッセンスをもっている。」と締めくくられた。
全て終わってすっかり感動した私は「これからは夫を少し手伝って畑(有機)の草取りをしなくっちゃ。」と、帰り際にコープ自然派の専務に話した。そうすると彼は「吉田さん、そんなことでなく政治の世界でやって下さいよ!」と力を込めるではないか。育てる会の理念「豊かな生態系をとりもどし、ヒトの生きる喜びの基本をとりもどし、効率でなくヒト中心の地域づくりを実践すること」をもって政治に当たる人材が求められているのではあるが、田舎のセンキョはしがらみでいっぱい、悩みどころである。
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