10月26日
委員の意見はゼロ?!?
〜吉野川整備基本方針は原案どおりに決定〜
先日の河川小委員会で承認された吉野川整備基本方針が、さらに上の社会資本整備審議会で審議されるということを、県のHP「知事の週間スケジュール」により知る。
小委員会を傍聴した際、知事代理が徳島の経緯をちゃんと説明しなかったばかりか「第十では御迷惑をおかけしています。」とまで発言していることを、9月議会の代表質問で責めた。今度は知事本人が行って説明してくれるのか? この目と耳で確かめなければ。と、再び東京へ。「吉野川東京の会」のみなさんも傍聴に来ていた。河川整備基本方針検討小委員会のメンバーはこちら
9月の小委員会では、第十堰の根拠なき危険さが異常にクローズアップされたが、この審議会で知事は何を発言し、各委員はどんな意見を言うのか?
場所は小委員会と同じ国交省11階の大会議室。13時半の開始5分前に飯泉知事が着席。すかさず豊岡さんふたりで知事に歩み寄り「(吉野川のことを)是非よろしくお願いします。」と前日の徳島新聞トップ大見出しの「可動堰以外で決着を」の記事コピーを手渡し、あいさつした。いつものようににこやかな笑顔で受け取る飯泉氏であった。
配付された資料を見ると、15名の委員の他にそれぞれの河川流域にある10人の道府県知事が出席することになっていたが、知事本人の出席は徳島県のみで、あとの9人はいずれも県の次長、課長クラスばかりである。徳島県の吉野川にかける意気込みは十分感じられる。
この日は、吉野川以外に合わせて5つの河川についての基本方針が決定される。会議が始まり、河川局長のあいさつ約2分。小委員会の近藤委員長の経過説明約30分。これについて事務局が出席者の意見を求める。
15秒ほどの沈黙のあと、飯泉知事が挙手。
- 第十堰については緊急対策として早期に維持補修をしてほしい
- まずは可動堰以外のあらゆる方法を検討してほしい
- 第十堰を核とした地域づくりを、
の3点を改めて強調した。これが6分。他に挙手はなかったが、事務局が9名の知事代理を順番に当てていくと「別に意見はありません。出来るだけ早く整備計画に着手してほしい。」と全員が同じ意味のことを言った。
9人全員で約6分。「他に委員のみなさんご意見は?」という問いには、議場は静まりかえったまま15名の委員たちは誰一人発言しようとしなかった。45分で会議は終了し、これにて吉野川他4つの河川の基本方針が決定されたのだった。
何のための委員か?
吉野川だけでなく5つの河川の審議会は、始まりから終わりまで約45分。そのうち意見らしい意見を述べたのは飯泉知事の6分だけ。あいさつと報告を除くと12分で会議は終了した。
形骸化とは良く言ったもので、一日幾ばくかの(決して安くはないだろう)日当をもらい、交通費をかけて集まってこられている委員の先生方は、いったい何のためにいるのだろう。
吉野川シンポの代表姫野氏が前日に河川局に電話で審議会の内容を問い合わせると電話口の職員が「この日は基本方針がほぼ原案どおりに可決される見込みです。」と臆することなく答えたという。各委員の机の上には真っさらな「河川六法」(厚さ約10センチ)がずっしりと置かれていた。「意見が言えるものなら言ってみい!」と言わんばかりだ。
会議終了後それをカメラに収めようと私の傍聴席のすぐ前の河川局長席の机上をパチリ。職員が血相を変えて飛んできた。河川局長のメモを写されては大変ということか。そういう意図ではないことを説明し、撮影の許可をもらう。
基本方針をどう読むか?
分科会終了後、マスコミにとり囲まれた知事は、可動堰の可能性が残った基本方針の文面に対して「小委員会であれだけ第十堰に対して危険だという声の大きい中で、むしろ徳島の意見を十分に尊重して頂いたと逆に思っている」というようなことを言った。そう言われるとそんな気になってしまいそうな発言である。
県選出の民主党代議士にも河川局担当は「この基本方針はこういう風に読んでほしい」という言い訳に来たそうだ。お役所が何と言い訳をしても、知事がどういう解釈をしても、事実は基本方針に書いてあるとおりだ。
翌日の徳島新聞に吉野川シンポの姫野氏のコメント。「古い考えと新しい考えがせめぎ合う過程で今回のような表現になったと思う。」いろいろな意味で過渡的な時代、良い流れをつくるのは政治家や官僚でなく地域住民だ。第十堰の問題は財政問題であり、環境問題であり、何よりも民主主義の問題なのだ。
朝日新聞夕刊コラム
3日後の朝日新聞夕刊コラム(全国版)に次のような記事が載った。徳島では夕刊は取り扱っていないので、ここに掲載します。
仏造って魂入れず
今から13年前、徳島県政の取材にあたっていたころのことだ。旧建設省の出先機関の職員2人が、県庁の記者クラブを訪れた。吉野川可動堰の建設に際し、環境への影響を調べる委員会の発足を伝えに来た。その時の申し出に驚いた。「委員会の委員名は非公開とします」。理由は「途中段階で内容が出て誤解されるのが怖い」と意味の分からないことを言った。結局、委員会自体も非公開で進み、数年後「可動堰建設による環境への影響は少ない」との結論が出た。
可動堰建設に4億円の建設費がつき、着工へと進み出したころだった。その後、曲折を経て計画は白紙に戻る。
26日に開かれた国土交通省の審議会の河川分科会を傍聴していて、当時を思い出した。情報公開の面では隔世の感がある。委員名は明らかだし、一般傍聴も可能だ。
だが、役所の筋書きに沿って進む審議方法は変わっていない。国交省が決めた一般の委員は10数人。流域の住民はいない。彼らから意見や質問はなく、可動堰計画への含みを残す表現を盛り込んだ河川整備基本方針が40分で承認された。
傍聴した徳島県議の吉田益子さんは「数字の根拠など聞きたいことがたくさんあった」と言う。その川の流域に暮らす人たちの意見が反映されない方針づくり。「河川計画への住民参画」を看板にせっかく改正された河川法が、運用で失敗している。
仏つくって、魂入れず、では困る。(中村正憲)
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