2月7日
日本一視察の多い市役所〜埼玉県志木市〜
初めて志木市長・穂坂邦夫さんの講演を聴いたのは昨年11月、福島県での「地方分権フォーラム」。自民党県議5期、県議会議長、自民党県連会長も経験したという穂坂さんの斬新、シャープな政策の数々は、よくもまあ次々にやってくれると感心、ほれぼれ。
今年1月に徳島文理大学大学院主催のシンポジウムにパネラーとして来県された際に名刺交換させていただき、「よ〜し!」と志木市に出かけていった。
志木市は有楽町から地下鉄で45分とあって、面積わずか9km3に人口約6万人、典型的なベットタウン。「3割自治」とよくいわれるように収入に対する自主財源が少ない自治体が多い中、志木市は6割以上も自主財源があるにもかかわらず、将来への危機意識がすごい!!
20年間新規職員の採用なし!
わが吉野川市は「3人の退職者に対して新規採用を2人にして10年間で約400人の職員を50人削減する」とのことだが、この日、視察の対応をしてくれた志木市職員の尾崎さんは「1人採用すると生涯賃金3億2000万円を引き受けることになる。そういう余裕はないし見通しも立たないから。」と言う。10年間で200人以上職員を減らす。
そうすると市民サービスはどうなってしまうの?
と心配になってくる。加えて「新人が20年間も入ってこない会社は経営体としては死に体でないのか?」と、徳島でのパネルディスカッションの際に突っこまれていたことを質問する。
「必ずしも公務員がやらなくてもよい仕事は行政パートナーとしてNPOなどに業務委託する。」という。行政パートナーは謝礼として1時間あたり710円を受け取る。
市民意識アンケート調査の結果も「市民ができることは市民が行い、謝礼の金額も適当」という声が9割を占めるという。
「どうしても職員数が足りなくなったときは中途採用すればいい、職員が1人退職すると1.5人の行政パートナーを雇うことができる。平成33年には、今約600人の職員が半分の301人になり、行政パートナーが523人、職員数の84%を市民が担うことになる。そして人件費は現在の40億円から27億円に節約できる見込み。」
この日も市役所玄関で私たちを迎えてくれたのは、行政パートナーのおじいさん。ニコニコ笑顔で親切な対応が温かかった。
なぜ改革が必要か?
厳しい施策の陰には将来のことに目をつぶらない断固とした経済見通しがある。
「今後の20年間の財政計画を示して」と言っても「三位一体改革の動き等不透明な部分があるので、計画を立てられない」と言い訳されてしまうことがほとんどなのだが、志木市は、平成14年度から20年間の収入、支出の見通しを厳しくしっかり立てていた。
[収入の部]
- 市税:91億円が82億円に
- 地方交付税:20.5億円が16.5億円に
- その他の収入:27億円が22億円に
[支出の部]
- 高齢化社会の進行による老人ホーム等の建設費用:この20年間に新たに3施設が必要、3億円が3つ
- 老人保健、国保、介護保険の繰り出し金
- 障害者福祉費:20年間で約2倍
- 水害対策(志木市は川の町):排水機場整備済みは1施設、新たに3施設整備15億円
- 公共施設維持費(小学校8、中学校4、公民館、図書館、市民病院など):130億円
- 人件費、公債費
これらは基礎自治体が担うべき必要最低限の事業。このままでは立ちゆかないという危機感が行動を生んだ、という当たり前のことなのだが、首長が選挙で4年ごとに変わるという仕組みのためかどうなのか、責任者不在になりがちで、ぬるま湯につかったような地方自治がこれまで日本国中続いていたのではないだろうか。
実際、1年の予算規模が50億円という旧山川町(平成16年に合併して吉野川市)でも、総事業費200億円の下水道事業に手をつけることに疑問を持った町民と町長との話し合いの中で「孫の世代にまで借金をして将来誰が責任をとるのか?」という町民に、当時の町長は「その頃私は町長を辞めているから」と答えていた。
節約した財源は教育に
こうして節約できた数十億円の財源を、志木市は「25人程度学級」や不登校生徒・児童へ学校に行かなくても自宅で単位を取得できる「ホーム・スタディ制度」等々、ユニークな教育制度の創設に当てている。
詳しくはホームページ志木市の教育改革
第2の市役所「志木市民委員会」
市民の声を市政に反映させる施策として約200名で構成される「市民委員会」を設立。単なる行政への要望をする組織ではなく、行政と同様に自ら予算案を編成し、提言、調査活動を行う。任期は2年。1年目は200人以上、2年目の今年も約130名が参加。
旧4町村から3名ずつ募集の審議委員になかなか人が集まらなかった吉野川市だったので、応募する市民が多いのに驚き質問すると、就業前の朝、職員自らが何日も駅前でチラシを配り、その熱意を感じた市民が多数応募してきたとか。
それにしても、新市長就任2ヶ月後には最初の条例ができていて、革新的な市長の施策を着々と実行する職員の能力には敬服する。
その点をきいてみると「例外ももちろんいるけど(笑)前市長の4期16年間に能力主義をとった結果、職員が育っていた」ということだった。
う〜ん、なるほど。やはり人は一朝一夕には育たないのか。
徳島県の場合、財政改革の中期展望は作成しているが長期計画は存在しない、という無責任な事実が昨日の総務委員会(2月21日)ではっきりした。
国の動向で不透明な部分はあるだろうが、いろいろなパターンを想定して長期計画を作成すべきだろう。
志木市長が元自民党県議だったということが初めちょっと意外でもあったが、戦後の良い面での日本をつくってきた自民党の中にいて、90年代の社会の変化に対応できなかった反省から、地元の基礎自治体でやるべき計画を断行しそれを「罪滅ぼし」と言う穂坂さんの想いは尊い。
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