8月4日
〜検証 みどりのダム〜吉野川流域の場合
可動堰NO!を受けて
2000年1月23日に徳島市民が住民投票で示した「可動堰NO!」を受けて、「NPO法人吉野川みんなの会」が可動堰に変わる吉野川流域の総合治水計画を提案するため、13人の専門家による「吉野川流域ビジョン21委員会」に計画案作成を委託していた。
研究費3200万円のうち、何と徳島市が半額の1600万円を助成、残りの1600万円は、市民のカンパを募った。
この3月、ビジョン21委員会は研究の成果をまとめ、徳島市に提出。原市長は「結果を尊重し徳島市の意見として採用し国交省に述べることになっている。
(これについて「中身をよく検討してから」という一部の市議会議員の抵抗もあるらしい←現在進行中)
この報告書は230頁に及ぶ分厚いもので、大きく分けて第十堰保全の部とみどりのダム機能の部に分かれている。
みどりのダムを推進することによってこれからの国土保全、環境保全、雇用の確保、ダムなし治水計画、等々たくさんの効果が期待されるとして、議員として、会派として積極的に取り組みたい。
そのためにはこの報告書をじっくり読み、研究者の中根周歩先生(広大大学院教授)にもお話を聞く機会を作っていただいた。
日本学術会議の答申
みどりのダムという言葉が使われはじめて、もうどれくらいになるのだろう。はげ山よりも茂った森のほうが雨水を根っこに吸い込んで貯める効果があるということは素人でも納得できる話。早い話がこれが「みどりのダム」の効果である。
戦後の一斉拡大造林の際に皆伐された日本の山々も、木々が十分に育つ以前に洪水が多発している。
そして国土の3分の2を森林面積が占める日本で、「これ以上木を植えるところがないから、みどりのダムの効果はこれ以上期待できない」というのがダムを推進する人たちの言い分である。
これは「みどりの砂漠」と言われる今の森林の状態を把握していない机上の空論と言える。
そして日本学術会議の答申「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について」では
「森林は主に森林土壌の働きにより、雨水を地中に浸透させ、ゆっくり流出させる。そのため、洪水を緩和するとともに川の流量を安定させる。」としながらも
「大規模な洪水では洪水がピークに達する前に流域が流出に関して飽和に近い状態になるので、このような場合ピーク流量の低減効果は大きくは期待できない」
「このように、森林は中小洪水においては洪水緩和機能を発揮するが、大洪水においては顕著な効果は期待できない」
と言っていて、コンクリートのダムを造りたい行政にとって、この文言はみどりのダム機能の限界を述べる「錦の御旗」になっているのだ。
中根研究の意義
しかし、である。「中小洪水」と「大洪水」の境目はどこだろう?
森林の種類によってダム効果に違いはないのだろうか?
また、同じ種類の森林でも管理の仕方によっての違いは?
吉野川流域の場合、この数十年の森林の成長はどれくらいピークの流量を蓄えて、時間をずらすことが出来たのだろうか?
国交省の言っている150年に一度の洪水のピーク流量はこの森林の成長をちゃんと考慮した数字なのだろうか?
学術会議の「総論」にたいして、吉野川流域で実際にこれまで降った大雨と川に出た流量のデータを用いて、流出過程の解析を行ったのが中根先生の研究の大きなポイントのひとつ。
解析にはタンクモデルが使われたが、これは国交省が採用している「貯留関数法」のタンクモデルよりも精度が高いものだ。
流出の解析の際、決定されたタンクモデルの係数を用いて、過去の吉野川の洪水を150年に一度、つまり2日間で440mmの雨に引き延ばしてみて岩津地点のピーク流量を計算してみると、それぞれの洪水で国交省の予測を下回る結果が出たばかりか、その数字の変化は森林の成長と正の相関関係が見られたのだ。
そして、その結果は、中根研究のもうひとつのポイントである、
(1)天然林と人工林(2)放置人工林と適正間伐人工林の浸透能の相対比較の結果と合わせると、今後の流域森林整備がさらに流域の治水機能を高める可能性が限りなく大きい事を示している。
中根研究は、学術会議の答申に対して、ひとつの具体的な流域で科学的データの裏付けより、みどりのダム機能を日本ではじめて検証した画期的な研究なのだ。
本来河川管理者である国交省自身がやるべき事を、市民団体と地方自治体の協力でやってのけた天晴れな研究なのである。
たくさんのボランティアとカンパ
さらにこの研究のよいところは、たくさんのボランティアの参加である。
浸透能の調査では、山の急斜面に重たい水のタンクを運ぶ作業があり、私は11月のすばらしい晴天の日に参加したからよかったけど、暑い夏や雪の中での作業は本当に大変だったという。
広島大学大学院の中根研究室の院生はいずれもさわやかな青年たちで、早朝からの作業を終えて土まみれになった身体で「このきつい研究が世界のダム計画を変えるんだ〜」と夕日に向かって叫び、私もいっしょに青春した日のことは生涯忘れられないだろう。
さらに、1600万円の資金集めも本当に大変で、当時の代表や事務局の苦労は相当なものだった。
担当のMさんは、自宅にある金目のものを全てバザーに出し、理解と協力を求めて、一軒一軒こつこつ足を運び、
当時のみんなの会代表のHさんは年末年始返上で全国の支援者に数千通の手紙を書いたという。
国交省が同じ研究をやったら、数億はかかっていたであろうと中根先生は言う。
住民投票の結果を国に突きつけただけでもすごいことだったけど、徳島市民は本当に立派である。
ダム問題を抱える全国各流域で広がって欲しい研究である。
|